こんにちは。リチャードです。

最近、「早く英語が話せるようになる」という話をよく目にします。動画やSNSで、「こうすれば10倍速い」といったアドバイスを見かけることもよくあります。

そういう方法の中にも、実際に効果があるとされているものは確かにあります。ただ、よく言われているいくつかの方法は、研究を調べてみると、話されているのとは少し違うようです。

今回は、特に有名な4つについて、研究が実際にどう言っているのかを見ていきます。英語の学び方で迷ったときに、ひとつの目安になればうれしいです。

この記事の内容: よく言われる4つの方法について、研究はどう言っているかをまとめます。

目次


神話1:ネイティブの真似をすれば発音が良くなる

ヘッドホンでネイティブの英語を聞いて、少し遅れて同じように言う。これで発音が良くなる、という方法です。シャドーイングと呼ばれています。

ただ繰り返すだけでは、発音は良くなりません。誰かに「今の音はここが違う」と教えてもらうことが大切です。

ある研究で、これを日本語話者で試しました。英語の r は、日本語で育った人にはいちばん難しい音のひとつです。ひとつのグループは、普通の会話練習の中で発音を練習しました。誰も直しません。このグループは、まったく上達しませんでした。もうひとつのグループは、間違えた直後に、先生が正しい言い方で言い直してくれました。上達したのは、こちらだけでした。

2024年に、発音ソフトを使った15の研究をまとめた報告が出ました。「今の音のどこが違うか」を見せてくれるソフトは、とても効果がありました。でも、正解か不正解かだけを出すソフトは、効果がずっと小さくなりました。真似をするだけの練習は、こちらに近いものです。一人で練習した場合も、あまり効果がありませんでした。誰かと二人で練習すると、いちばん良いソフトと同じくらいの効果がありました。

有料のアプリなどにお金を払う前に、知っておいてほしいことが二つあります。

真似をする練習は、よく「英語のリズムが良くなる」と言われます。英語の音楽のような部分のことです。しかし、研究では、その効果はあまり確かめられていません。効果が出ているのは、right の r や think の th のような、ひとつひとつの音のほうです。

もうひとつ。短い期間では、測れるような変化は出ません。1〜4週間の練習では、ほとんど何も変わりませんでした。変化が見え始めるのは、5週間くらいからです。

真似をする練習が役に立たないわけではありません。ただ、それだけでは足りません。「どの音が違ったか」を誰かが教えてくれて、初めて意味が出てきます。


神話2:毎日500文を覚えれば文法は身につく

よく使う500文を書き出して、毎日繰り返す。広さより深さ、アスリートが基本を繰り返すように、という方法です。

これは昔の古い教え方を、今風に言い直しただけです。1940年代から1960年代に流行したやり方で、「オーディオリンガル法」と呼ばれていました。理由があって、何十年も前に使われなくなりました。

1983年の研究では、このやり方で同じ文を繰り返していたカナダの学習者たちの様子を調べました。練習の中では、正しく使えていました。練習の外では、まったく使えませんでした。練習が終わったり、文の形が変わったりすると、覚えたものは崩れました。学習者は、練習を始める前の話し方に戻ってしまいました。

単語についての研究では、これとは反対の結果が出ています。言葉を作るのは、たくさんの単語に、いろいろな場面で、間を空けて何度も出会うことです。500文を繰り返すことではありません。

文法は、叩き込むものではありません。同じ形にいろいろな場所で出会って、考えなくても出てくるようになったときに、身につきます。役に立つ繰り返しは、本物の英語に何度も出会うことのほうです。


神話3:70%わかるくらいの英語を聴けばいい

ポッドキャストや動画で、70%くらいわかるものを選ぶ。わかる・わからないの境目で、脳が自然に慣れていく、という方法です。

この数字は反対で、しかも少しではありません。

知らない単語がどれくらいまでなら文が読めるのか、調べた研究があります。読んでいる内容がわかって、しかも新しい単語も覚えられるためには、出てくる単語の98%をすでに知っている必要があります。知らない単語は、50語に1語まで、ということです。

(この数字は読むことについての研究から来ています。聴くことについて、同じような数字は見つかりませんでした。どちらにしても、70%とはかけ離れています。)

70%しかわからないと、頭は知らない単語を読み解くことで手いっぱいになります。文がどう組み立てられているかに気づく余裕も、新しいものを取り入れる余地も、なくなります。話の筋が切れます。だんだん緊張してきて、そのうち聞くのをやめてしまいます。

この動画のアドバイスの元には、有名な考え方があります。半分は当たっています。Stephen Krashenは、「今の自分より少しだけ上の英語」から人は学ぶと言いました。困るのは、「少しだけ上」がどれくらいなのかを、本人が言わなかったことです。その後も、測る方法は見つかっていません。1978年から、研究者はまさにその点を批判してきました。測れないものは、確かめようがないからです。

単語の研究では、その代わりの目安が紹介されています。実際の単語で数えると、「少しだけ上」は、100語のうち知らない単語が2〜5語くらい、という数字になります。30語ではありません。

もっと簡単な目安があります。話についていけるなら、ちょうど良いところにいます。ついていけないなら、レベルを下げましょう。境目は、計算して出す割合ではありません。意味がまだ伝わってくる、という感覚です。


神話4:つらいのは、脳が育っているサイン

英語がきついのは、脳が無理やり育てられているから。8〜9時間寝れば、大きな進歩が来る、という考え方です。

前半は、はっきりした意味で間違っています。不安は脳を育てません。脳の邪魔をします。

でも、ちょうどいい中間もあります。少しの緊張は、頭をはっきりさせて、飽きるのを防ぎます。心理学では、このことについて研究されています。緊張が上がると成績も上がりますが、ある点を超えると下がってしまいます。まったく気楽なのも、良い状態ではありません。危ないのは、頂点の向こう側です。

その頂点を過ぎたところで、いくつもの研究が同じほうを向きます。不安は、英語を取り込むとき、整理するとき、出すとき、どの段階でも邪魔をします。不安なとき、頭は英語とその気持ちの両方に分かれています。

この中のひとつを、実際に実験して確かめたものもあります。落ち着いている学習者は、不安の強い学習者より、直してもらうことからずっと多くの効果を得られます。同じ直し方でも、その人が安心しているかどうかで、結果が違います。

脳が危険を感じたときにどう働くかを調べると、その理由がよく分かります。脳が「これは危ない」と判断すると、守りに入ります。柔らかく考えることが難しくなり、覚えたことも長く残りにくくなります。守りの反応が、意識してやろうとしている学習の邪魔をします。

努力は確かに記憶を助けます。練習の間を空けること、同じことにいろいろな場面で出会うこと。ただ、それが効くのは、その人が不安でないときだけです。努力と不安は別のものです。この二つを同じだと思ったところから、この神話は生まれています。

それから、睡眠の話です。よく眠ることは大切です。覚えたことが自分のものになるには、時間もかかります。ただ、何時間眠れば英語が伸びるかという研究は、見つけられませんでした。よく眠ると頭がすっきりしますから、しっかり寝てください。動画の「8〜9時間」という数字は、あまり気にしなくて大丈夫です。

教室を安心できる場所にしている先生は、試験のような空気を作る先生より、あなたの英語を伸ばすために大切なことをしています。


実際に効果があること

直してもらいながらの発音練習。 先生が正しい言い方で言い直してくれること。right と light、think と sink のように、一つの音だけが違う単語の組で練習すること。発音のソフトを使って、自分の音に点数をつけてもらったり、どこが違ったか教えてもらったりすること。効いているのは訂正のほうで、繰り返しそのものではありません。AIの音声チャットは、そうではありません。AIは、あなたの言うことを理解するために作られています。発音をチェックするためには作られていません。だから、間違った発音をしても、たいていそのまま通り過ぎてしまいます。これについては AIと賢く付き合う記事 に書きました。

決まった文ではなく、たくさんの単語。 たくさんの単語に、いろいろな場面で出会うこと。そして、忘れる直前にもう一度出会えるように、間隔を計ること。Leitnerボックスの記事英検のリトリーブプラクティスの記事 に具体例があります。

だいたいわかる英語を、読む・聴く。 出てくる単語の95〜98%をすでに知っているくらいです。意味のはっきりした物語、ポッドキャスト、やさしい本。ただ、聞き流すだけでは、文法の正確さは身につきません。うまくいっていないところを、誰かに指してもらう必要があります。料理と英語の記事 では、手を動かす気楽な作業が緊張を下げて、聴くことがよく効くようになる例を紹介しています。

間違えて当たり前の教室。 練習が実を結ぶのは、安心できる場所です。緊張を下げてくれる先生となら、同じ練習でも、あなたが得られるものは多くなります。スターフィッシュ英会話教室を、そんな場所にしたいと思っています。


さいごに

4つの神話に共通しているのは、ひとつです。つらさを飛び越える近道を約束していることです。

研究が指しているのは、もっと地味なほうです。だいたいわかる英語。どこを間違えたか教えてくれる人との練習。それが身につくまでの、間を空けた時間。そして、通い続けられるくらい安心できる場所を作ってくれる先生や相手。人によって順番も速さも違いますが、向きは変わりません。

「ほとんどすべての単語がわかるものを5週間続けてください」では、地味すぎて動画のネタになりません。ただ、動画で紹介されていた派手な方法よりも、研究で良いと言われているのはこちらのほうです。