英語を教える中で、60代以上の、意欲にあふれるシニア世代の皆さんと出会うことは、私たちにとって本当に特別な経験です。日本で35年間、多くの方の英語学習をお手伝いしてきた中で、この素晴らしい生徒さんたちには、その豊かな人生経験と、一人ひとりの学習ペースに寄り添う、温かいサポートが何より大切だと感じています。

シニア世代の生徒さんを、もっと深く理解するために

シニア世代の生徒さんは、豊かな人生経験という、素晴らしい宝物を持って教室に来てくれます。海外旅行で使いたい、というような具体的な目標や、学びへの純粋な好奇心も持っています。

その一方で、少しデリケートな一面も。「間違えたらどうしよう」という不安や、若い頃とは違う記憶の仕方に戸惑いを感じたり、かつて学校で経験した、文法を訳しながら進む授業のイメージが強く残っていることもあります。

シニア世代の学び方を研究する分野では、年齢に対する「もう年だから」といった固定観念を取り払い、学習者一人ひとりが主役になれる、エンパワーメント(自信を育むこと)と、温かい環境づくりが大切だと言われています。

生徒さんの心に寄り添う、大切な5つのヒント

1. その方のペースを、大切にする

新しいことをじっくり理解し、自分のものにしていく。シニア世代の学習では、そのための時間が必要です。これは能力の限界ではなく、成熟した大人の脳が、丁寧に言語を処理している証拠。カリキュラムを急ぐ気持ちを少しだけ横に置いて、その方の歩幅に合わせて進む柔軟さを持ちましょう。

2. 安心感と楽しさの、良いバランスを見つける

会話中心のレッスン(コミュニカティブ・アプローチ)はとても大切ですが、文法を一つひとつ確認しながら進む、昔ながらの方法を完全に否定する必要はありません。特に日本のシニア世代の皆さんは、その方法に慣れ親しんでおり、安心感を覚えることも多いのです。大切なのは、楽しい会話の中で、自然な形で文法に触れられるように工夫することです。

3. 「間違えても大丈夫」という安心感をつくる

多くの方は、年齢を理由に「自分はちゃんと覚えられるだろうか」という不安を抱えています。その優しい心を、私たちは温かくサポートしたいものです。

  • 小さな「できた!」を一緒に喜ぶ
  • 「間違いは、学んでいる証拠ですよ」と伝え、当たり前のことにしていく
  • いろいろな形で、何度も練習できる機会をつくる
  • 完璧さよりも、まずは「伝えよう」とすることの素晴らしさを大切にする

4. これまで慣れ親しんだ学び方も尊重する

日本の生徒さんは、きちんと順序立てられた学習に慣れていることが多いもの。いきなり自由な会話だけのレッスンでは、戸惑ってしまうかもしれません。慣れ親しんだ安心できる進め方を基本にしながら、少しずつ会話や活動の要素を増やしていくのがおすすめです。

5. 「これ、使ってみたい!」と思える英語に触れる

学習内容がご自身の目標に直結していると実感できたとき、学びの意欲はぐっと高まります。例えば旅行英語なら、架空のシナリオではなく、「空港のチェックイン」「レストランでの注文」など、本当に使いそうな場面を、具体的に練習することが効果的です。

明日から使える、レッスンのヒント

レッスンの組み立て方

  • ウォームアップ: 前回の内容を軽くおさらいして、「思い出せた!」という自信につなげる
  • 今日のテーマ: 新しい内容を、分かりやすく少しずつ紹介する
  • 練習: 先生と一緒に、そして生徒さん同士で。色々な形で練習する
  • 文法の時間: 必要に応じて、会話の流れの中で文法を分かりやすく解説する
  • 使ってみよう: 実生活に近い場面で、ロールプレイなどを楽しむ
  • まとめ: 大事なポイントを振り返り、「次回も楽しみ」と思えるように締めくくる

「できた!」を実感してもらう方法

点数で評価するテストは、時に大きな不安を与えてしまいます。代わりに、こんな方法はいかがでしょう。

  • 「できるようになったこと」を確認する自己評価チェックリスト
  • 生徒さん同士で褒め合う、温かいフィードバックの時間
  • これまでの成果をまとめたポートフォリオ作り
  • 「海外のカフェで注文する」などの、具体的なミッションに挑戦してもらう

レベルが違う生徒さんが一緒に学ぶとき

3〜5人くらいの少人数クラスなら、一人ひとりに目を配りながら、グループの楽しい雰囲気も保ちやすいです。ペアワークを工夫したり、少し先に進んだ方には「こんな表現もできますよ」と次のステップを提案したりするのも良い方法です。

学習への自信を、一緒に育てる

何よりも大切なのは、シニア世代の生徒さんを、新しい言語を学んでいる、知性豊かな素晴らしい大人として、心からの敬意をもって接することです。ご本人が持っているかもしれない、年齢に関するネガティブなイメージを、私たちは一緒に乗り越えていけます。

  • 大人の言語学習の素晴らしい可能性について、科学的な知見を共有する
  • 同じように学んで楽しんでいる、他のシニア世代の方々の話を紹介する
  • 言語学習が、いかに脳を元気に保つかを伝える
  • 豊かな人生経験や、目標に向かう真摯な姿勢、その忍耐強さこそが、何よりの強みだと称賛する

仲間がいることの、心強さ

同じ目標を持つ仲間がいると、学習はもっと楽しく、心強いものになります。生徒さん同士のつながりを育むために、こんな活動も素敵です。

  • グループで知恵を出し合う、簡単なクイズやゲーム
  • お互いの文化や趣味について話す時間
  • 旅行の思い出や、これから行きたい場所について語り合う
  • みんなで一つの目標に取り組む、共同プロジェクト

最後に

シニア世代の皆さんと英語を学ぶ旅は、私たち指導者にも、忍耐や文化への深い理解、そして一人ひとりに寄り添うことの大切さを教えてくれます。彼らの学習スタイルを尊重し、年齢に対する固定観念を乗り越えるお手伝いをすることで、私たちは信じられないほどの可能性の扉を開くことができるのです。彼らは、私たちの最も熱心で、感謝の気持ちを伝えてくれる生徒さんたちになってくれます。

大切なのは、基準を下げることではありません。大人の脳が心地よく言葉を吸収できる方法を尊重しながら、生徒さん一人ひとりが「話せた!」「伝わった!」という喜びを感じられる道を、一緒に作っていくことです。

この投稿は、シニア世代の学び方に関する研究と、日本での数十年にわたる指導経験を基にしています。私たちのシニア向け旅行英語プログラムについて、詳しくはコースページをご覧ください。